水戸家庭裁判所麻生支部 平成7年(家)202号
主文
相手方を被相続人の推定相続人から廃除する。
理由
1 申立ての趣旨及び実情
申立人は、被相続人の三女であって、被相続人が昭和62年10月19日にした公正証書遺言によって指定された遺言執行者であるところ、被相続人は、同遺言により、相手方が、父である被相続人を常に馬鹿等と罵り、かつ、事ある毎に侮辱し、また、被相続人の妻であって相手方の母である坂上はるゑに対して暴力を加えるなど、虐待を続けるので、相手方を推定相続人から廃除する旨の意思表示をした後、平成7年5月15日に死亡したので、主文同旨の審判を求める。
2 当裁判所の判断
(1) 事実の認定
水戸家庭裁判所調査官○○作成の調査報告書を初めとする本件記録によると、上記1記載の事実のほか、次のとおりの事実が認められる。
<1> 被相続人は、長男である相手方が昭和48年12月27に則子と婚姻した後も、妻はるゑとともに、相手方夫婦と同居したが、はるゑと則子が不和を生じたことから、同夫婦は昭和50年11月に別居した。
<2> 相手方は、上記の別居中、時折、被相続人を訪ねて農作業の手伝いをするなど、交流を続け、昭和56年ころ、被相続人が相手方に自宅の改築と同居を提案したことから、被相続人が頭金を負担し、相手方が住宅ローンを組み、昭和57年7月ころまでに自宅の改築を完了し、そのローンは相手方が返済することとなったが、則子が難色を示したため、相手方夫婦は昭和58年4月に至って漸く同居した。
<3> 同居後、はるゑと則子の不和の再燃を原因として、被相続人夫婦と相手方夫婦が対立するようになり、1年を経ずに、食事は固より、使用する冷蔵庫及び洗濯機まで別にする状態になり、相手方夫婦の嫌がらせを避けるなどのため、被相続人夫婦は、冷蔵庫を自己らの居室に、洗濯機を屋外に、それぞれ設置することを余儀なくされ、外出時には障子に目張りをするまでになったことから、この状態を憂慮した申立人等の呼び掛けで数回にわたって親族会議が開かれたが、相手方は、一方的に則子に加担し、被相続人夫婦への配慮及び関係改善への努力を拒絶した。
<4> その後、昭和59年12月には、相手方が、はるゑが炊飯器に尿を入れたと因縁を付け、帚ではるゑを叩き、嫌がらせのために玄関及び台所等の戸を開け放つなどし、昭和60年4月には、則子がはるゑに暴力を振るい、同人が接骨院への3か月間の通院治療を余儀なくされたことから、被相続人が警察署に則子の告訴に赴き、同年7月には、相手方が被相続人夫婦の部屋の電灯を消して「電気を点けたら殺す。」と脅迫したため、被相続人が警察官の臨場を求めるとともに、被相続人の長女である川島ちか子及び申立人の各夫婦が駆けつける騒ぎとなり、更に、相手方は、同年11月には、はるゑが則子の衣類を切り裂いたと申し立てて、被相続人の部屋に来て暴れ、昭和61年1月には、風呂の湯が出ないようにボイラーに細工をするなどしたものであり、このような事態が続いたことから、被相続人は枕元に護身用の木刀を置いて就寝するようになった。
<5> 相手方夫婦の言動に思い余った被相続人は、法務局、弁護士事務所及び家庭裁判所等に相談に赴いたすえ、昭和62年1月7日、第1次的にははるゑに、万一、同女が被相続人より先に死亡した場合には、申立人及びちか子等、相手方を除く3名の子に、遺産を遺贈する旨の公正証書遺言をし、その後も相手方夫婦の行状が改まらないので、相手方を推定相続人から廃除することを決意し、上記1記載の公正証書遺言をした。
<6> その後も相手方夫婦の被相続人夫婦に対する嫌がらせが続けられる中、被相続人は、平成7年3月中旬に入院したまま、退院することなく死亡したが、相手方は1回だけ見舞いに訪れたものの、則子の来訪はなかった。
<7> 被相続人は、上記各遺言を撤回する意思表示等をすることなく、平成7年5月15日に死亡した。
以上の認定に反する相手方及び則子の陳述は、被相続人の日記の抜粋等の客観的な資料と矛盾するものであって、申立人並びにはるゑ及びちか子、更には、被相続人の二女である高見なお子のほぼ一致した陳述に照らしても、信用することができない。
(2) 申立ての当否
上記の事実に基づいて検討するに、相手方夫婦の被相続人夫婦に対する侮辱、暴力及び嫌がらせは、昭和58年から開始され、被相続人が死亡した平成7年までの約12年間という長期間にわたって継続され、しかも、その手段及び態様とも、陰湿かつ時には激烈なものを含み、決して軽度のものとはいえず、はるゑとの平穏な老後を期待しながら、相手方夫婦の行状に悩まされ続けた被相続人が、相手方を推定相続人から廃除する旨の上記遺言をするに至ったことは、無理からぬものというべきである。
この点に関し、相手方は、相手方夫婦の言動がはるゑの則子に対する嫁いびりに端を発した通常の親子喧嘩の域を出ないものである旨主張するが、上記認定の事実経過に照らして、そのような程度のものとは到底認められず、失当を免れない。
そして、上記の侮辱等は、被相続人に対して直接に、または、同人が保護ないし援護するべき妻はるゑに対して、加えられるとともに、相手方自らが行い、または、その妻則子において行ったものを相手方が黙認、放置したものとして、いずれも相手方の責めに帰するべきものであるので、相手方は、被相続人に対して同人との相続的家族協同生活関係を破壊するに足りる虐待及び重大な侮辱を加えたものとして、被相続人の推定相続人から廃除されるべきである。
3 結論
以上のとおりであるので、民法893条前段及び892条並びに家事審判法9条1項乙類9号により、相手方を被相続人の推定相続人から廃除することとし、主文のとおり審判する。